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「不況、不況というけれど、皆さんこんなに元気です(笑)」 もの作りとは綺麗事の実現!「第1回 エンジニアカフェ」(2009.5.17開催)

2009年06月09日

「エンジニア」という言葉に「?」を浮かべる皆様へ

いま、世界は「エンジニア」という言葉で溢れかえっている。
システム、サウンド、バイオ、フィナンシャル…。

例えばこんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

「自然な会話の流れとして『ご職業は?』という質問を投げ掛けたところ、
『エンジニアです』という答が返ってきて、ちょっと話に間が空いてしまった」

そして、この「ちょっとした間」にぼんやりと頭に浮かべていたイメージは……

「漠然と理系」
「一日中パソコンと向き合っている」
「ラボにこもって、実験と研究に明け暮れる日々」
「素人目には全くわからない、膨大な数式を操る人種」

……ご安心下さい。

何を隠そう、これを書いている私自身も立派にその一人でありますし、
それどころか、私の職業はビデオエンジニアという技術者なのであります。

従って、皆様よりも少しだけ下駄を履いているにも関わらずこの有様。

「エンジニア」という職業は、ありとあらゆる分野に必要とされ、
日々その領域を広げながら進化する言葉であり、
今回の出演者の中にも「『ご専門は?』と聞かれると非常に困る」という
コメントを残された方もいるぐらいですから、これはもう、無理もない話なのであります。

もはや、「エンジニア」という職業の全てを理解することは困難であり、
誰一人としてそれを達成した者はいない。と言っても過言ではありません。

しかし、今回開催されたこの「エンジニアカフェ」というイベントは、
「エンジニア」の「エ」の字も分かっていないエンジニアの私が
抱えていた誤解(上記のどうしようもない勘違い)を、
見事に是正するどころか、芝居っ気たっぷりに

「『エンジニア』って言葉はさ、元々『エンジンを見る人』って
 意味があるんだけど、という事は1800年代のイギリス、
 つまりは産業革命によって発明された蒸気機関車に
 由来する可能性が非常に高い。轟音と共に初めて
 線路の上を駆け抜けた巨大な鉄の塊が、より速く、より遠くへと
 物資を運ぶための交通手段という地位を獲得して、
 世界中に飛び火しながらその領域を広げていった結果、
 200年後の世界には『エンジニア』という言葉の氾濫と、
 『なんだかよく分かんないけど、難しい事をやってる人達』という
 誤解だけが取り残されたんだよね」

なんて事を口走って、すっかり達観した気になっている
知的な傍観者(こんな奴が、ホントにいるかは知りませんが)の
皆様にも、もれなく一泡吹かせる内容となっておりますので、
自信を持ってお届けできるという確信のもと、このどちらにも
該当しない皆様、もしくは、会場に足を運ぶ事が叶わなかった
誰かの為に、全力でレポートさせて頂きたいと思いますので、
どうか最後までお付き合い頂けたらと思います。

001

エンジニアってなんだろう?を語る会、それがエンジニアカフェです。

「~エンジニア」というナンセンス。

さて、先程も書きましたが「~エンジニア」って職業、
ホントにたくさん見かけますよね。

「システム」とか「サウンド」とか、割と具体的な方向性を示す
単語が頭にくっついているにも関わらず、実際にどんな事を
生業にしているのか。それがぼんやりとしか伝わってきません。

私としても、これは凄く不思議な現象だなと感じています。

この問題に対する明確な回答、とまでいくかどうかは分かりませんが、
今回出演して頂いた3つの企業のプレゼンテーションを検証することで、
「いま、エンジニアという業界に何が起きているのか?」という、
ある種の内部構造を理解する一つのキーワードを導き出しました。

それは、「壁を作らない」という事です。

002
「壁を作らない」

本来、「~エンジニア」という言葉の「~」は、
「自分がどこに属するエンジニアなのか?」という事を表す、
住所で言う所の「○○県○○市」と言った大雑把な
カテゴライズを意味していると言えます。

しかし、この住所のようなカテゴライズが持つ機能性は
「自らの住まいを定める事で、とても強固な壁を作り、
結果として、他人には覗く事が出来ない我が家の建設」を
促してしまい、「この土地を深く掘り下げ、より快適な住環境を」という
意欲的な行為であるにも関わらず、自らの意志とは逆に、
他人からみると「何してるのか分からん、壁の向こうは見えないから」という
ディスコミュニケーションを生み出してしまいました。
(完全に度を超えた言い回しですが)

この「壁を作らない」というキーワードは、
「家を壊し、土地を捨て、雨や風に晒されながら
何処までたどり着く事が出来るか?」という、
まるでロードムービーを見ているかの様な3社の
プレゼンテーションによって裏打ちされた、
新しい「エンジニア」という歩き方なのかもしれません。

では、その「壁を作らない」もの作りとは、
一体どのような具体物によって為し得るものなのか?
その製品を紹介しながら進めて参りましょう。

「壁をつくらない」という具体物

皆さんは「LaFonera(ラフォネラ)」という
無線LANルーターをご存じでしょうか?

世界150カ国で100万人が愛用するこのルーターは、
通常のルーターには無い画期的な機能性によって、
日本国内でも大々的なプローモションを行っていないにも関わらず、
ここ最近で最も急速な広がりを見せている類い希な機種なのです。

例えば、自宅でこの「LaFonera」を使用する場合、
通常の無線LANルーターは1つのシグナルしか持っていないため、
近くの電波を拾ってきてインターネット環境を整えるという働きをしますが、
この製品は2つのシグナルによって、1つは「電波を拾う」、
もう一つは「電波を発信する」という形で機能します。

これによって何が起こるのか?

自分の自宅にあるルーターが電波を発する事により、
同じく「LaFonera」を使っているユーザーに対して
「電波を分け与える」という現象が起こり、そのユーザーが、
さらに他の誰かに電波を発信することで、
ねずみ算式にインターネットにアクセス出来る環境が
広がっていくという、夢のような話が実現するのです。

しかも、製品購入に掛かる費用以外は通信費を含めて全てタダ。

「現在のアクセスポイントは日本国内で約64,000箇所。
 海外も含めると400,000箇所に及びます。
 『グーグル』を使って何処にアクセスポイントがあるかを
 検索する事も出来たり、『ライブドアワイヤレス』や
 『タリーズカフェ』との提携によって、山手線内の
 80%をカバーする規模のアクセスポイントを確保しています」
(ニナニック、フォン・ジャパン株式会社COO)

より多くの人がインターネットにアクセス出来る環境の実現と、
外側に向けて発せられる「電波のお裾分け(しかも0円!)」という
太っ腹な思想の根幹には、やはり「壁」という概念は
存在しないことを表しているし、何よりもそれがユーザーの
手によって行われるというシステムは、ビジネスモデルとしても
大きな意味を持っていると言えるのではないでしょうか。

ところで、ネット環境がこれほどの広がりを見せているのであれば、
次にユーザーが求めるのは、当然の事ながらコンテンツ
(ネットの中身)の充実になります。

お待たせいたしました。

次に紹介いたしますのは、「貧乏ゆすり」という、
世界共通の生理現象を動力とするプロダクト
「YUREX(ユレックス)」でございます。

003

YUREXのデザインラフ

この製品は、「面白会社」と検索するとグーグル、ヤフー共に
ヒット数が第1位で出てくるという業界屈指の
面白コンテンツメーカー「KAYAC(カヤック)」によって生み出され、
「貧乏ゆすり」をスポーツやクリエイティブ、エンターテインメントとして
捉える事で(既に何を言っているのか全く分かりませんが)、
世界で初めて「貧乏ゆすりのコンテンツ化」に成功したという代物。

それでは、このとんでもない発想と、馬鹿馬鹿しいけど
無視できないプロダクトの開発過程に迫ってみたいと思います。

「うちの社長が貧乏ゆすり酷いんですよ。
 で、最初は『この運動をエネルギーに変えられないか?』という
 所から始まりまして、『貧乏ゆすりで発電=エコ』という発想で
 『ハッピーバイブレーション』と言っていました。
 カヤックは基本的にweb屋なのでプロダクトはやった事がなかったし、
 『話題性も含めてアーティストとやりたい!』となりまして、
 『貧乏ゆすりが得意そうなアーティスト』という事で、
 明和電機さんにお話をさせて頂きました」(浦上幸江、面白法人カヤック)

「多分、どこ探しても明和電機しかいないでしょうね(笑)。
 貧乏ゆすりをちゃんと製品化する所がカヤックの怖さですね、
 スゴイですよ」(テリー植田)

「なんか…、『出来る』って勘違いしてしまって、
 思い込みで出来たみたいな(笑)」(天羽裕美、面白法人カヤック)

当初は「エコ」という観点から始まったこのプロジェクトも、
製品化に向けての準備段階で、徐々にその設計思想から外れていく事になります。

「貧乏ゆすりっていうと、床に面している部分が
 最も発電に向いていると思っていたんですが、
 実は、いちばん力が掛かっているのは腿である事に気が付いたんです。
 『腿に付ける何か』という方向性で『おもちゃ』に移行して、
 最終的には『カウンター』という所に落ち着きました。
 ただ、『カウントすることのナンセンス』みたいな部分に喜びすぎてしまって、
 プロダクトとしてのコンセプトを見失いました…(笑)。」
 (浦上幸江、面白法人カヤック)

「『万歩計じゃない?』みたいな(笑)。で、明和(電機)さんの方から、
 『カヤックはwebとかやってるから、一緒に連携とか出来ると良いよね』という
 お話を頂きまして、『カウントしたものをネットでどうにかしよう』
 みたいな流れですね。この時点で『かわいい路線』から、
 デザイン性を重視した『アスリート路線』に仕様が変わってます」
 (天羽裕美、面白法人カヤック)

004
万歩計!?固まるまで試行錯誤したYUREXのデザイン

出来たは良いけど、中身がない。という、
はっきり言って珍しいタイプの問題に直面した開発チームが出した結論、
なんとこれが「貧乏ゆすりのスポーツ化」でした(笑)。

「競技です(笑)。『ゆすり』という公式スポーツを作りまして、
 競技に参加する人間は『ユスリート』と呼ばれます」
(浦上幸江、面白法人カヤック)

「1つのアイディアとプロダクトを売るために、どんだけ頑張るんだと…(笑)。
 ネットを開発するのはよくやってるんですが、プロダクトを作りたいがために
 プロモーションだとかアートディレクションを全部やらなきゃいけない、
 という所にやっと気がつきました(笑)」(天羽裕美、面白法人カヤック)

「あとは、世界中の貧乏ゆすりをカウントして、
 ある回数までたまるとビックバンが起こる。
 というユレックスサイトの立ち上げですとか…(笑)」
(浦上幸江、面白法人カヤック)

005
プロダクトにとどまらない「貧乏ゆすりのプロジェクト」

ユスリートという競技人が集うための「ユレックスサイト」には、
2万回ゆすると固有のデータがデジタル解析されて、
自分にとって一番クリエイティブなノリノリの状態をアナウンスしてくれる
「ドーピングモード」や、ゆすりに疲れた殿方を、チアガールの
衣装を着たロシア人モデルが励ますという「チアモード」など、
Web屋としてのポテンシャルの高さも示しつつ、
中でも圧巻だったのは、このプロダクトのために
わざわざCMまで作るという力の入れようでした。

「CMと別に作らなくても良いじゃん、とか思うかも知れないんですけど、
 自分達がやりたい事は全部やる。プロモーション費とかは
 別にないんですけどね(笑)。作れるものは全部作ります」
(天羽裕美、面白法人カヤック)

006
30秒CMまでつくっちゃった

もちろんプロダクトですので実際に使ってみないと、
という事になりまして、会場に訪れたお客さんの中からモニターを選び、
実演も行われました。

007
お客さんで実演中

008
結果を測定!

Web屋が作るプロダクト。しかも、その設計からプロモーションに
至るまでの全ての工程を自社で引き受ける。
こんな企業が過去に存在したなんて話を、少なくとも私は耳にした事がありません。

Webという枠、エンジニアという壁を越えたからこそ、
あの明和電機に「本当にナンセンス、ぶっちぎってますね。
少なくとも5年は先を行く製品です」と評されるまでの
プロダクトが仕上がったと言っても過言ではありません。

エンジニアのフィールド

「壁をつくらない」という思想に基づき開発された具体物が、
強烈なインパクトと共に数多く登場した今回のイベント。

しかし、これだけ逸脱したもの作りの現場が、
果たしてエンジニアのフィールドと呼べるのだろうか?
という疑問に苛まれた私は、正直少しだけ混乱していました。

が、この疑問は直ぐに解消される事となり、
一瞬で見識を改めるという全く持ってお粗末な話で大変恐縮ではありますが、
今度はその鮮やかな手際の一部始終をご覧に入れたいと思います。

「小さいときから、とにかくハンダ付けが好きだった」と話すのは、
「エンジニアアワード2008最優秀賞」の受賞者で、
有限会社キャップ代表の永山純一さん。

009
永山純一さん

この日、永山さんが披露してくれたのは、
インラインスケートという趣味が高じて作ったという「タイム測定器」。

「論より証拠」という事で、実際にプロのスケーターを
呼んで走らせるサービスまで行い、会場からは拍手喝采、
暖かい視線に見守られながら終始温和なムードに包まれてのプレゼンとなりました。

010
プロスケーターで測定中

「必要は発明の母。けれども、自作の父でもある」という考え方に基づいて、
スキーやスケートといった趣味の範囲で欲しいものを見つけ、
100円ショップなど身の回りにある材料で自作してしまう。

この作業の連続によって、永山さんの守備範囲はWebから日用品まで、
名刺の裏を埋め尽くす程のものになっていったそうです。

「無茶な要求も楽しむようにしています。だからアンテナは常に張っているし、
 既にあるもので満足したくない。もし自分だったら(こう作る)…
 とかって考えながら『100円ショップ』をうろつくと、ホントに面白いんですよ(笑)。
 壁を作らずに、『やった事ない』を恐れないって事ですかね」

012

今回のイベントで図らずもキーワードとなった「壁をつくらない」という
言葉を発したあと、永山さんは更にこう続けます。

「『ご専門は?』という質問がホントに困るんです。
 コレだけをやってるわけじゃないし、アレだけを突き詰めてるわけでもないし…(笑)。
 だからね、最近は『Meta Ability(メタアビリティ)』という言葉を使うようにしています。
 造語なんですけどね」

011
「Meta Ability=学習して能力をつける能力」

そう、これこそがエンジニアという職業の本質なのでしょう。

自らを取り巻く壁にアゲインストし、
興味や好奇心の赴くままに領域を広げていくという行為。

今回集まって頂いた3つの企業が、
大切に育んで行くであろうエンジニアリングという精神。

「この本質を失わなかったからこそ、200年前のあの日、
より速く、より遠くへと蒸気を吐き出した機関車は、
止まる事なく走り続けて、こんなに遠くまでたどり着けたのかもしれない」
なんて大袈裟な表現を思わず使ってしまうほど、多すぎる偶然に彩られたこの日、
会場を見渡しながら、私は何故か「不況」という言葉について考えてしまいました。

いま、世界的な不況によって、
日本のエンジニアは非常に厳しい立場に立たされている事は、
言うまでもありません。

しかし、ちょっと立ち止って考えてみれば、
戦後の日本という国に訪れた好景気は、たったの20年しか
無かった事も分かる。

60年代、80年代を除いてしまえば、その殆どが不況という
私達の国において、圧倒的に多数派に訴える「もの作り」とは、
「不況に慣れている人間の手」によるものなんじゃないだろうか?

だからこそエンジニアには「明日の生活を変える」という権利が託され、
私達は彼等の手によって「変わっていく明日」を待っているのかもしれない。

「こんな期待を81年生まれの私が疑いも無く持ってしまうぐらいなんだから、
これはやっぱり本当の事なんだな」と、考えたとき、恥ずかしい話ですが、
何だか無性に泣けてきました。

第2回、必ずやりましょう。
私は「泣ける映画」なんかより、
「泣けるプロダクト」が流行る世の中を見てみたい(笑。スイマセン)!

(淺沼匡/ライター)