ネットとリアルをつなぐソーシャル飲食店

付録は「おまけ」と思っている貴方、この雑誌はメインが付録なんですよ! 『大人の科学マガジンpresents 二眼レフカメラナイト』ライブレポート(09.11/8開催)

2009年12月10日

二眼レフって…?

Img_0041

デジタルカメラの「高性能化・低価格化」を受け、
一般ユーザーも気軽に「デジタル一眼レフ」を手にして
撮影や編集を行える時代になったいま、
「写真を撮る」という行為は、誰にでも簡単に楽しめるものへと
大きくその意味をシフトさせた。

しかし、「誰でも簡単に出来る」という現象は、
「誰でも簡単に出来ない」という事実を孕んで初めて成立するはずだ…。

などという、技術革新とモダニズム周辺の堅苦しくて退屈な話とは
全く持って無関係にリリースされた「大人の科学 二眼レフカメラ」は、
これらの背景とはやっぱり無関係に売れている。

Img_0031

「レコーダー」や「テルミン」、はたまた「マイコン」といった、
専門性の高いプロダクトを雑誌の付録レベルにまで噛み砕き、
取説を見ながら作れる程度にまで簡略化して一般ユーザーに
届けるという手法は、当然のことながら大人の娯楽として
多くの読者を魅了している。

Img_0032

今回行われた「大人の科学プレゼンツ 二眼レフカメラナイト」は、
その名の通り「二眼レフカメラ」を中心としたラインナップが並び、
更には手ごろな値段のデジカメを使って「数億ピクセル」という
高画質を実現する新たなプロジェクトなど、
「大人の科学ファン」にとっては堪らない内容のイベントになりました。

そもそもこの「二眼レフ」とは何なのか?

この名前に馴染みの無い方も多いと思いますので、
月並みでは御座いますが、まずはこのプロダクトの説明から。

・二眼レフカメラの特徴とは…
1)何といってもレンズが二つある。
2)一眼と違い、カメラを上から覗き込む。

以上の2点が二眼レフの主な特徴となります。

・レンズが二つある…。

カメラの通称として良く使用される「眼」という文字は、レンズの数を表しています。
つまり、「一眼レフ」はレンズが一つ、「二眼レフ」はレンズが二つとなるわけですね。
この二つのレンズにはそれぞれ役割があり、縦に並んだ二つのうち、
上に付いているものはファインダー(覗き込んで、ピントや露出を決めるためのレンズ)、
そして下に付いているものは結像様(フィルムに光を当て、実際に像を作る)として
機能し、それぞれ違った働きをしながらもカメラにはなくてはならない機能を
担っているわけです。

・カメラを上から覗き込む

「写真を撮る」というと「顔の前にカメラをセットして、ファインダーを通して
レンズの向こう側を覗く」といったスタイルが一般的ですが、
二眼レフはこれとは全く異なるフィギュアを持っています。

ファインダーがレンズの真後ろではなく、真上に設置されているために、
カメラをヘソの前辺りで抱え、上から覗き込む様にして撮影される二眼レフは、
一眼レフよりも必然的に「ローアングル」で撮影される事が多い。

上記の通り二つのレンズが異なる働きをするために、一眼レフの様に
「シャッターを切った瞬間が暗くなって見えない」というタイムラグがないため、
「自分の撮った画」がファインダーで確認できるという利点も兼ね備えています。
したがって、スタジオで人物を撮影する際に好んで使うカメラマンも多いわけです。

ぶっちゃけどうなんすか?

さて、今回発売されたこの「二眼レフカメラ」の性能は、
一体どれほどのものなのか?当然ですが、皆さん気になりますよね?
というわけで、プロのカメラマンが「大人の科学 二眼レフ」を
使ったらどうなるのか、実際に試してみました。

ゲストとして登場したのは、学研でカメラマンを担当している藤田一咲さん。

Img_0029
写真家・藤田一咲さん。

冒頭で

「失敗という言葉をこのカメラに使ってはいけません。味という言葉に置き換えて下さい」
「接写用のクローズアップフィルターも、二眼だから二個必要なんですよ。
 で、なんと二個買っちゃうと、カメラよりも高く付きます」

との発言に、会場全体が共感を持って応えるというコール&レスポンスが沸き起こり、
負けじと司会のテリー植田も

「2500円ですからね、壊れても安心。もう一個買えば良いんだから」

といった具合に拍車をかけ、タチの悪い通販番組の様なやり取りに
会場は実演販売を見つめるお客さんの目線で一杯となりました。

Img_0042
手前が、大人の科学編集長の西村さん。奥が、司会・テリー植田。

通常の二眼レフよりも小さいフィルムを使用する「大人の化学二眼レフ」は、
当然ですがサイズも一回りコンパクト。画の仕上がりも精密さよりも
雰囲気重視といった傾向で、「多重露光」も簡単に楽しめる辺りなど、
「トイカメラ」として楽しむのがお勧めです。

実際に会場に足を運んでくれたお客さんの中にも、
ステッカーやストラップ、塗装などを施して自分なりにアレンジしているものを
沢山見かけました。

因みに「ローライフレックスと比べると…?」という質問に、
藤田さんは

「比べるのは失礼ですね、どちらに対しても(笑)。
 だから2台ぶら下げて歩くのが正統派じゃないでしょうか。
 ピントなんかも、合わせるの疲れるじゃないですか(笑)?
 だからそーゆう気もちじゃなくて、撮りたいと思ったものに
 素直にカメラを向けて、一枚一枚楽しんで撮るのが良いと思いますよ」

なるほど…。

2500円という驚異的な値段と、コンパクトでアナログな「トイカメラ」の楽しみ方。
さすがは大人の科学!…と誉め称えたいとこですが、
会場では不具合を訴えるお客さんも多数詰め掛けていました。

「休憩時間に不具合がある方はスタッフを見つけて声をかけて下さい。
 今日はドライバー持参で来てますから…」

こうなってくると雑誌編集者というよりも、完全にメーカーさんですね。

Img_0014
不具合を訴えるお客さんのコメントをテリー植田がきき一言「学研さーん!クレームですよ!」

「大人の科学」にとってこのイベントが持っている意味は、
単純な販売促進ではない。アフターケアも含めたユーザーとのコミュニケーション、
そして、科学というファクターを挟んでその面白さを皆で分かち合うこと。

前代未聞の付録(むしろこっちがメイン)が生み出した未開の市場は、
他の追随許すことなく、ちょっとおかしな人達によって守られている。

全く関係ないですが、「こち亀」とかとコラボレーションすると面白いかもしれません。
何となくノリが似てるので…。

高画質を追い求めると…

10分間の休憩を挟んで、後半戦へ。

続いて登場してくれたのは
「身近にあるカメラで、誰でも数億ピクセルの写真が撮れる!」という
アメリカで生まれた新技術「Gigapan(ギガパン)」の数少ない
日本人関係者・大谷和利さんと、スキャナーとカメラレンズを
組み合わせて「スキャナーカメラ」を作ってしまったという
普段はプログラマー・小島良介さんによるプレゼンテーション。

Img_0045
Gigapanの国内第一人者、大谷さん。

両者ともに方法論の違いはあるものの、
「ものすごい画質の画を撮る」という共通のゴールを持っていて、
「こうなったら二人とも呼んでしまおう!」という事で足を運んで下さいました。

Img_0051
スキャナーカメラを「作ってしまった」小島さん。

「Gigapan」と「スキャナーカメラ」、馴染みのないものなので、
まずは技術的な説明から入ります。

Giga単位のピクセル数を有する、パノラマ撮影システム「Gigapan」。
市販の安価なデジカメと、300ドル前後の「Gigapanイメージャー」と呼ばれる
雲台を組み合わせて使う事で、恐るべきクオリティの写真撮影が実現するわけですが、
元々はアメリカの「カーネギーメロン大学」で開発された技術で、
一般に公開されたのは一昨年の2007年とのこと。

この「超高解像度VR(ヴァーチャルリアリティ)パノラマシステム」は、
ざっくり言うと、一つの風景を細かく分割して撮影するためのシステムです。
例えば500万画素クラスのデジカメで一つの風景を撮影すれば500万画素の
画が撮れるわけですが、この一つの風景を仮に縦5分割・横10分割して
升目状に切り分けます。

その升目一つ一つを500万画素のデジカメで撮影し、
50個の升目をつなぎ合わせれば「500万画素×50(升目の数)」で、
2億5千万画素の画が撮影出来るという仕組み。

意外なことに操作もシンプルで、雲台にカメラを乗せて撮影範囲を入力するだけで、
あとは勝手に雲台がコマ撮りを始めてくれます。

Img_0056
これがGigapanカメラ。機械の指が延々デジカメのシャッターを押し、
自動でコマ撮りしてくれる。

撮り終わったデータをパソコンに取り込み、
「Gigapanスティッチャー」というソフトを開けば、
コマ撮りした画像を見事につなぎ合わせてくれるわけですね。

Img_0054
Gigapanでコマ撮りされた大阪城。普通のデジカメ写真を無数につなぎあわせた結果、
超・高画質になった写真と解釈していただければほぼ間違いないです。

Img_0117
たとえばこんな港の変哲のない写真ですが……

Img_0120
ずんずんとズームしていくと……

Img_0122
崖の下のポニョのポスターがくっきりと浮かび上がりました!
2枚前の写真で、ポスターを探してみてください。これ、同じ写真データですよ。

一方「スキャナーカメラ」の方は、
スキャナーを分解して読み取り部分(CCD)だけを取り出し
レンズをその手前にくっつけたという、言葉にするとシンプルですが、
見た目は重厚な、まるで4×5カメラの様な出で立ちで会場を沸かせました。

Img_0067
見た目が重厚な小島さん自作の「スキャナカメラ」。

「想像したとしても、ここまで形に出来るのが凄い」と学研の編集部が絶賛したように、
「フィルムの代わりにスキャナーを使う」という発想力と、レンズとCCDの焦点距離など、
様々な問題をクリアしていく忍耐力。

とても素人が作ったとは思えないクオリティには、
やはり相当の試行錯誤があったようで、
「まずはスキャナーを分解する所から始まった(笑)」というこのカメラは、
「頑張って二眼レフを組み立てた」お客さん達の心をがっちり掴んでいました。

Img_0095
例えばこんな写真をスキャナカメラで撮って拡大すると…

Img_0096
棚のひとつがここまできれいに撮れるんです!ええ!

Img_0098
更にここまで拡大できる!2枚上の写真からこのカメラの写真がどこにあるか探してみてください。

Img_0099
これは、電動ロクロの上にバターのハコを乗せてスキャナカメラで撮影したものです。
コピーが失敗したときに画が「びよっ」と伸びて出るのと同じ原理だとか。

Img_0086
動き回る客席をスキャナカメラで撮影すると……

Img_0090
……こうなります。手がバルタン星人のようにびよんびよんに。
会場の全員が、この写真をみて大爆笑、拍手喝采!

学研な人々

単純なカメラフェチでもなく、かといってプロ志向でもない。
科学の面白さに取り付かれ、取説を見ながら二眼レフを組み立てた
「学研な大人達」は、自分たちにとって「何が面白いのか?」をきちんと理解している。

「Gigapan」や「スキャナーカメラ」など、専門的な機材のプレゼンテーションになると、
ついつい「有難いお話を頂戴する」という雰囲気に会場全体が呑まれてしまうものだが、
実演の下りで記念撮影をする際、それぞれのカメラの特性を理解しながら
「どうすれば自分が面白く写れるか」を考えて必死に動いている彼らを目にしたとき、
「あぁ~、この人たち幸せそうだなぁ」と感じたのを、数日経った今でも私は覚えている。

「大人の科学」という雑誌と、それを楽しみに待っている読者との間には、
需要と供給を超えたつながりがある。「科学」という夢物語を書き足していく
雑誌に必要なのは、秀逸な文章ではない。

自分たちの信じる面白さに形を与え、組み立てる事で初めて獲得できる
大人のための遊び道具。付録という購買意欲を刺激するために発案された
仕掛けはいま、親である雑誌を乗り越えて「大人を虜にする本当の大人」に
なろうとしているのかもしれない。

Img_0150

Img_0151

最後に、会場で撮影したGigapan写真です。
下の画像は上の写真のどこを拡大したものか、是非探してみてください。それでは!

(淺沼匡/ライター・カメラマン)