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『超合法建築図鑑〜斜線カテドラルからコンテナ建築まで』ライブレポート:“大人の一夜漬け講座”シリーズ開校!ありえないけど合法な建物一挙大公開!(11.1/29開催)

2011年02月10日

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「僕がはじめて法規を意識して街を見たときの、まるで眼鏡を掛け替えた瞬間のような驚きをもしみなさんと共有できるならば、それはたいへん嬉しいことだと思っています。」

本講座の教科書(と言っていいでしょう)である『超合法建築図鑑』のまえがきは、こんな文章で締めくくられています。次々に飛び出る専門用語に圧倒されながらも、とても興味ぶかく、充実した二時間を終えたお客さんは、みんな新しい眼鏡をひとつ手に入れたのではないでしょうか。少なくともわたしはここ数日、街を見上げてばかりいます。

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カルカルの新シリーズ「大人の一夜漬け講座」、第一回目は建築をテーマに行われました。「建築」とひとことで言っても非常に幅の広いものではありますが、今回は「超合法建築」といういっぷう変わった、しかし街中に溢れてもいる建築物を題材にしての講座。講師の吉村靖孝氏は、本業の建築設計業のかたわら、このテーマを元に大学で教鞭をとったり、タモリ倶楽部にも出演されています。

「超合法建築」とは、その名前の通り「建築法規を厳密に守ることによって、なんだかおかしなことになってしまった建築」のこと。意図されたデザインなのか、それとも法規とのせめぎ合いの結果なのか…。まずはその基礎となる、都市と建築のあり方についてのレクチャーから講義が始まりました。

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街なかで採集したたくさんの建築物について、それぞれその根拠となる法規を解説しながら見てゆきます。かなり専門的な言葉がぽんぽん飛び出すので、ついうっかりお酒の手が止まることもしばしば。

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たとえば、こんな風に三角形の増築が為された理由は「道路斜線」と呼ばれる高さ制限と、その緩和のせい。道路の端から一定の角度内に建物をおさめなくてはいけないために、一度は削れたデザインになり、その後の法改正によってその条件が緩和され、削られた分を増築できたというもの。ややこしい。

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この法規を図説すると、こんな感じ。「1:1.25」ルール。

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こんなけったいな構造も、奇抜さを狙ったわけではなく、

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こんな風にこまごまとした法規の制限を受けてできているものなのでした。

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他にもその建物が建つことによって、既存の建物の日当たりを制限することがないように定められた「日照制限」によって、こんなアンバランスなものが出来てしまったり。

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非常用進入口には赤い▼印をつけなければならない、というのを逆手にとった真っ赤なビルがあったり。

一見笑えたり、奇抜だったり、不思議な形になっているものが、実は「法規の制約」に依るものである、というのはなかなか新鮮な発見でした。特に都心部のように土地の値段の高いところでは、敷地に対して最大限の効率を求めるので、よりいっそう法規による束縛がつよく現れるのだとか。技術の進歩や時代の趨勢によって、この法規もさまざまに変化したり緩和されたりしているのですが、「法規が変わると街並みが乱れる」とのこと。確かに。

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東京の都市部に対する建築法規がこれほど複雑化している要因のひとつに、羽田空港の存在があるそうです。飛行機の離発着の安全を守るためにすり鉢状に細かく高さ制限が敷かれていて、例えば品川あたりは140mの高さまでしか高層ビルを建てられないのだとか。吉村氏は学生時代からこの問題を解決するために、「羽田空港を300m高く作りかえる」というアイデアを持っているのだとか。あまりにもダイナミックな発想に驚くばかり。(詳しくは氏のサイト内『羽田空港高層化計画』で)

ここまでで、一時限目終了。授業の休み時間のように、のんびりくつろぐお客さまたち。

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二時限目のテーマは「コンテナ建築」。20世紀の物流のあり方を大きく変えた「コンテナ」を建築に転用するとしたらどのようなものが考えられるか、というテーマ。コンテナそのものの製造コストが大きく下がった結果、空荷となったまま放置されているコンテナが相当数あるのだとか。余談ですが、コンテナの発明がどれほど世界の物流や港湾、製造業や農業に影響を与えたかについてはマルク・レビンソンの『コンテナ物語』に詳しいです。名著。

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氏がコンテナに興味を持つきっかけになった、東京デザイナーズウィーク2005参加作品『HOUSE STYLING』。廃棄処分となるコンテナに穴を空け、中を覗けるような仕組みになっていたとのこと。

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廃棄処分になったトラックの幌で一点もののカバンを作る、FREITAGの旗艦店は同じく廃棄になったコンテナを利用して作られているそう。なんて筋の通ったこと!

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横浜市金沢区にあるベイサイドマリーナホテルは、すべてコンテナの規格に合わせて設計をし内装その他をすべてタイで行い、できあがったものを海運して設置するというプロジェクト。「なぜわざわざタイで…」と思ったのですが、運送のコストだけで考えると、タイ〜本牧の船便よりも本牧〜現地の陸運費の方が高いのだとか。モジュール化された流通って本当にすごい。

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「コンテナ規格」という制約の中で、どう組立時の合理性を求めるか、構造体そのものを小さくして居住スペースを得るか、運搬時にはどんなアイデアが必要か…。細かな工夫や苦労話を伺いました。このように高度にモジュール化されたこの作品は、現地に設置するとき一棟あたり数時間で施工が完了してしまうとのこと。すごい!

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この発想をさらに推し進めたプロジェクトが、次に紹介された『緊急災害救援ユニット EDV-01』。災害発生時迅速に対策本部を置けるように、20ftサイズのコンテナにすべてのインフラを内蔵して輸送、そしてふたのように引き上げることによって居住スペースを確保するというもので、どこにでも移動できてしまう建築。コンセプトビデオの出来が素晴らしくて、ちょっと涙がほろり。→ http://www.youtube.com/watch?v=HyZqd4jmv9Y

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内容は盛りだくさん、しかしあっという間の二時間でした。法規が実際のかたちとなった都市や建築から逆向きに法規を読み解いたり、あらかじめ規格の決まったものから建築を発想するという考え方は、専門的に建築を学んでいない身としても非常に魅力的な経験でした。今後、街を歩いたり港に積まれたコンテナを見るたびに、時についつい今日学んだことを思い出してしまうのでしょう。次回の講義をお楽しみに!

(ライブレポート・アオキエリ / EXHIVISION